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マイホームを売却した際の大きな税金の特例として「居住用財産の3,000万円特別控除」があります。しかし、この特例の適用をめぐって税務署と納税者の間で見解が分かれ、争いになるケースも少なくありません。
今回は、親から贈与された実家を売却した際に、この3,000万円特別控除が認められなかった国税不服審判所の裁決事例(平22.6.24、裁決事例集No.79)について、分かりやすく解説します。
どんな事件だったのか?
事案の概要
事案の概要は以下の通りです。
登場人物:
請求人: 納税者。10年以上にわたり母親名義の実家に住んでいた。
母親(D): 家の所有者。
買主(F): 家の購入者。
経緯:
・請求人は、長年住んでいた母親所有の家(土地建物)を売却する話を進めていました。
・その過程で税理士に相談したところ、「母親から家の贈与を受けてから売却すれば、贈与税は相続時精算課税制度を使い、売却益については居住用財産の3,000万円特別控除を使える」という節税スキームの助言を受けました。
・売却の交渉が進み、買主や売却価格(6,500万円)がほぼ固まった後、請求人は母親から家の贈与を受け、所有者となりました。
・贈与から約半月後に正式な売買契約を締結し、その後、家を買主に引き渡しました。
・請求人は、この売却について3,000万円特別控除を適用して確定申告しました。
・しかし、税務署は「この特例は適用できない」として、追加の税金(更正処分)とペナルティ(過少申告加算税)を課しました。
・請求人はこの処分を不服とし、国税不服審判所に審査請求を行いました。
争点はどこにあったのか?
この事例の最大の争点は、売却した家が、3,000万円特別控除の要件である「個人がその居住の用に供している家屋」に該当するか否かでした。
納税者の主張:
・贈与を受ける前から10年以上にわたり、生活の拠点として住んでいた。
・所有者になった後も、売却するまで実際に住み続けており、「居住の意思」はあった。
・法律には所有期間についての定めはないのだから、所有者としての居住期間が短くても問題ないはずだ。
税務署の主張:
・今回の贈与は、家を売却することが確定した後に行われたものだ。
・贈与を受けた時点では、請求人は引っ越しまでの一時的な居住の意図しかなく、生活の拠点として継続して使用する意思はなかった。
・したがって、この家は「居住の用に供している家屋」には当たらない。
審判所の判断:納税者の敗訴
国税不服審判所は、納税者の主張を退け、税務署の処分は適法であると判断しました。 つまり、3,000万円特別控除の適用は認められませんでした。
その理由は以下の通りです。
特例の趣旨は「所有者として」の居住が前提
審判所はまず、この特例の趣旨について「譲渡者がその所有者として居住の用に供していたこと」が要件であると解釈しました。 したがって、納税者が所有者になる前の居住期間がどれだけ長くても、それはこの特例の適用を判断する上では考慮されない、と明確に指摘しました。
所有者になった時点で、すでに売却が決まっていた
事実関係をみると、母親から贈与を受けて所有者になった平成18年7月1日の時点で、すでに第三者への売却が事実上決定していました。 審判所は、売却を前提として、3,000万円控除の適用を目的として贈与が行われたと認定しました。
「所有者として居住する意思」が認められない
上記2の理由から、請求人が所有者となった後においては、「所有者として真に居住する意思」があったとは認められない、と判断しました。 売却までの間、一時的に住んでいたに過ぎないと見なされたのです。
この事例から学ぶべき教訓
この裁決事例は、居住用財産の3,000万円特別控除の適用において、形式的な要件だけでなく実質的な居住の意思が厳しく問われることを示しています。
・「所有者として」の居住実態が重要: 親名義の家に長年住んでいても、それはあくまで「親の家」に住んでいるだけです。特例の適用判断においては、自分が所有者になってからの居住実態が問われます。
・節税目的の直前の贈与は否認リスクが高い: 売却が決まってから、特例を受けるためだけに形式的に所有者になるような行為は、税務署から「租税回避行為」と見なされる可能性が非常に高いと言えます。
マイホームの売却に関する税金のご相談は、取引を実行する前に、ぜひ一度専門家である税理士にご相談ください。


