相続税の債務控除の要件と具体例

債務控除の要件

債務控除とは、相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の債務を承継して負担するとき、その負担した債務を相続等により取得した財産の価額より控除して、相続税の課税価格を計算することをいいます。

相続税法13条で債務控除が規定されています。また、相続税法14条第1項で、控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨を限定しています。

債務控除の要件をまとめると下の4要件となります。

  1. 相続または遺贈により取得したものであること
  2. 被相続人の債務で相続開始の際、現に存するものであること
  3. 確実であると認められる債務であること
  4. 取得した者の負担に属する部分の金額であること

相続財産から控除できる債務の具体例

銀行からの借入金

銀行からの借入金がある場合には、亡くなった時点の残高を控除することができます。銀行からの借入金の亡くなった時点での残高は、借入金の返済予定表か残高証明書により確認を行います。

賃貸物件を銀行からの借入金で建築している場合には、アパートローンの借入金が残っている場合があります。また、自宅の購入で住宅ローンがある場合で、亡くなった時点の借入金が残っている場合もあります。

住宅ローンの場合には、団体信用生命保険(以下、団信)の有無に留意が必要です。団信とは、住宅ローン返済中に契約者に万が一のことがあったときに、住宅ローン残高がゼロになる保険のことです。団信は、住宅ローン契約者が死亡などでローンの支払いができない場合に、生命保険会社が住宅ローン残高に相当する保険金を銀行に支払い、債務を返済します。団体信用生命保険契約に基づき返済が免除される住宅ローンは、被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務ですので、相続税の課税価格の計算上、債務として差し引くことはできません。 

未払の光熱費等

通常、電気代、ガス代、水道代などの公共料金は、月単位での請求となります。月の途中で亡くなった場合には、被相続人が生きていた期間分の最後の光熱費が未払光熱費として、相続税申告での債務控除の対象となります。

最後の光熱費の金額は、生きていた最後の期間分の光熱費の請求書をもとに日割り計算した金額で債務控除します。光熱費の支払いは、電力会社等からの請求書をもとに現金で支払う場合より、通帳からの口座引き落としにより支払うことが多くあります。そのため、被相続人の預金通帳を確認して、相続発生日より後に引き落とされている光熱費の金額を把握します。

未払の医療費

病気で入院して亡くなる場合には、最後の入院代などの医療費を亡くなった後で、ご家族が支払います。亡くなった後で、ご家族が支払った医療費、介護費用などは、被相続人の亡くなった時点での債務として、相続税申告での債務控除の対象となります。

未払いの医療費の金額は、病院等からの請求書や領収書で金額の確認を行います。医療機関や介護施設などによっては、医療費や介護費用の支払いを被相続人の預金口座から口座引き落としにより行う場合があります。その場合には、被相続人の預金通帳を確認して、相続発生日より後に引き落とされている医療費や介護費用の金額を把握します。

預り敷金

被相続人が不動産賃貸業を営んでいた場合、賃貸人から預かっている敷金がある場合があります。預かり敷金は、入居者が退去する際に返済する義務を負うものですので、相続税申告では債務控除の対象となります。

預り敷金は、賃貸借契約書で敷金の金額を確認します。賃貸アパートの他、貸し駐車場の場合にも、全ての賃貸借契約書を確認して、債務控除の対象となる預り敷金の金額を把握します。

預り敷金について、預り敷金の一部を「敷引き」(償却)して、返還をしない場合があります。その場合には、敷引き後の敷金の金額を債務計上します。例えば、敷金500万円のうち100万円は、契約終了時に敷引きし、400万円を返還する場合には、400万円が債務控除の対象となります。

未払いの固定資産税

固定資産税は、1月1日に不動産を所有している人に対して課される税金です。毎年4月頃に不動産がある地域の自治体から納付書が届きます。固定資産税の納付は、1回でまとめて支払うか、4回に分けて納付します。納期限は、自治体によって異なります。

東京都の場合には、固定資産税の4回の納期限は、6月(第1期)、9月(第2期)、12月(第3期)、翌年の2月(第4期)になります。

未払いの固定資産税の金額は、固定資産税の課税明細書、固定資産税の納付済みの領収書により把握します。固定資産税の支払いは、口座引き落としのことも多いため、被相続人の預金口座を確認して、口座引き落としになっているかも把握します。

被相続人が不動産を共有で所有していた場合には、債務控除の対象となる未払いの固定資産税の金額は、被相続人の不動産の持ち分の割合に応じた金額となります。未払いの固定資産税の金額に、被相続人の持ち分の割合を掛けて、被相続人の債務控除の金額を計算します。

ケース1

被相続人が、6月(第1期)、9月(第2期)の固定資産税を払った後、10月に亡くなった場合。
この場合には、12月(第3期)、翌年の2月(第4期)が未払ですので、第3期と第4期の2回分が債務控除の対象になります。

ケース2

被相続人が、6月(第1期)、9月(第2期)、12月(第3期)の固定資産税を払った後、翌年1月に亡くなった場合。
この場合、翌年の2月(第4期)が未払ですので、1回分が債務控除の対象になります。また、翌年分の固定資産税(4回分)も債務控除することができます。これは、1月1日時点では、被相続人は存命でしたので、翌年の固定資産税も被相続人が納付すべき税金だからです。

未払いの所得税

①前年分の所得税の未払い

所得税は、1月1日から12月31日までの期間に関する所得について、翌年の3月15日を期限として、確定申告を行って納付します。現金で所得税の納付を行う場合には、翌年の3月15日が納付期限となりますが、振替納税により口座引き落としにより納付する場合には、翌年の4月20日頃(年により前後します)が口座引き落とし日になります。

亡くなった時点で、前年分の所得税の納付が完了していない場合には、前年分の所得税の未払金額が相続税の債務控除の対象となります。

②当年分の所得税の未払い

また、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの期間に関する所得については、亡くなった日から4ヶ月以内に確定申告を行います。この亡くなった年分の最後の確定申告のことを準確定申告といいます。

準確定申告は、相続人が申告書を提出し納税しますが、被相続人が払うべき金額ですので、準確定申告にかかる所得税は、相続税の債務控除の対象となります。

なお、準確定申告で還付される所得税がある場合は、その所得税は被相続人のプラスの財産となりますので、相続財産として計上します。

未払いの住民税

個人住民税は、1月1日にその市町村(都道府県)に住所がある者に対して、その自治体が課税します。住民税は、毎年5月前後に納税通知書が届きます。

亡くなった時点で、亡くなった年分の住民税が未払いの場合には、相続人が引き継いで納付しますので、相続税の債務控除の対象となります。

また、亡くなった年の翌年に住民税が課税されることはありません。所得税のように準確定申告もありません。

控除することができない債務

延滞税や加算税

被相続人が支払う必要のあった税金を相続人が支払った場合で、支払いが遅れた場合などには、延滞税や加算税などのペナルティが課されます。これらペナルティが課されるのは、相続人の責任に基づくものですので、相続税の債務控除の対象となりません。被相続人が亡くなったときには、延滞税の支払いが確定しているものではないからです。

他方、被相続人が、生前に納付が遅れて、生前に課された延滞税などは、相続税の債務控除の対象となります。被相続人が亡くなったときに、延滞税の支払いが確定しているからです。

お墓を購入した際の未払金

お墓は相続税が課税される財産ではありません。つまり、お墓を相続しても相続税は課税されません。そのため、被相続人が生前に購入したお墓の未払代金などは、非課税財産に関する債務として、控除することはできません。