目次
不動産の名義変更を行った後に、贈与税の負担に気づいたというケースは少なくありません。名義変更が贈与とみなされる場合、贈与税が課税されるのが原則です。しかし、一定の条件を満たせば、贈与がなかったものとして扱われる場合があります。
以下では、国税庁の通達「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」とその運用通達をもとに、具体的なケースと税務上の取扱いについて解説します。
名義変更通達とは?
名義変更通達とは
名義変更通達とは、国税庁が定めた法令解釈通達の一つで、正式名称を「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」といいます 。これは、不動産や有価証券などの財産の名義を変更したり、他人の名義で取得したりした場合の贈与税の取り扱いを定めたものです 。
名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640523/01.htm
「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」通達の運用について
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640704/01.htm
通達が定められた背景
贈与は、多くが親子や夫婦などの親族間で行われ、その事実を把握することが難しい場合があります 。このため、不動産の所有権移転登記など、財産の名義変更が行われ、かつ対価の支払いがない場合には、名義人となった人が贈与によってその財産を取得したものと推定して贈与税を課税するのが原則的な取り扱いです 。
しかし、名義変更が贈与の意思に基づかない場合や、やむを得ない理由、あるいは錯誤によって行われる場合もあります 。こうしたケースでは、例外的に贈与とみなさないことが適切ですが、その事実を客観的に証明するのが困難なことも多いです 。
そこで、国税庁は、財産の名義人と実際の権利者を一致させることを基本としつつ、贈与契約の取消しなどがあった場合の取り扱いを具体的に定めました 。この通達によって、どのような場合に贈与がなかったものとして扱われるかが明確にされています 。
名義変更通達での取り扱い
贈与契約が「合意解除」された場合の特例
贈与契約が当事者の合意によって取り消されたり、解除されたりした場合でも、原則として贈与税の課税対象となります。しかし、以下の4つの条件をすべて満たし、かつ、税務署長が贈与税を課税することが「著しく負担の公平を害する」と認める場合に限り、贈与はなかったものとして取り扱われることがあります 。
①贈与税の申告期限内の取消し
贈与契約の取消しまたは解除が、その贈与があった年の贈与税の申告書の提出期限までに行われ、かつ、名義変更等によってその事実が確認できること 。
②財産の未処分・未担保
贈与された財産が、受贈者によって売却されたり、担保に供されたりしていないこと 。
③所得税等の申告をしていないこと
贈与者または受贈者が、当該財産について譲渡所得や非課税貯蓄等に関する所得税などの申告または届出を行っていないこと 。
④果実の引渡し
受贈者が当該財産から得た果実(賃料など)を収受していない、または、収受している場合には贈与者に引き渡していること 。
過誤や軽率な名義変更の場合
名義変更が過誤に基づき、または軽率に行われた場合も、贈与がなかったものとして扱われることがあります 。
具体的には、他人名義で不動産等を取得したり、自己の所有する不動産の名義を他人に変更したりした場合に、それが過誤や軽率によるものであり、かつ、その事実が取得者等の年齢などから確認できるときです 。
この場合、最初の贈与税の申告若しくは決定又は更正の日前に、名義を取得者等の名義に戻した場合に限り、贈与がなかったものとして取り扱われます 。
「やむを得ない事由」による他人名義のケース
他人名義で財産を取得した場合でも、それが贈与の意思に基づかない「やむを得ない理由」によるものであれば、贈与とみなされない場合があります 。運用通達では、以下のケースが「真にやむを得ない理由」に該当するとされています。
①強制換価手続きを免れるため
強制執行を免れるために他人名義に変更したが、それが通常の生活に重大な支障をきたす等の真にやむを得ない事情によるものであった場合(配偶者や3親等内の親族の名義に変更した場合を除く) 。
②住宅金融公庫等からの借り入れのため
住宅金融公庫などから資金を借り入れるために、借入資格のある他人の名義で土地や家屋を取得した場合で、以下の事実が確認できるとき 。
・取得者が頭金や借入金を返済していること 。
・取得者が他に居住できる家屋を所有していないこと 。
・取得者が自ら融資の申し込みをして抽選に外れるなど、融資を受けられなかった特別な事情があること 。
・取得者がその土地・家屋に実際に居住していること 。
・取得者が上下水道やガスなどの設備を設置していること 。
贈与契約が「法定取消権」によって取り消された場合
詐欺や強迫、夫婦間の契約取消権などの法定取消権または法定解除権に基づいて贈与契約が取り消された場合、その事実が名義変更などによって確認できれば、贈与はなかったものとして取り扱われます 。
この場合、贈与税の申告や決定があった後でも、国税通則法の規定に基づき更正の請求が可能です 。
過誤や軽率な名義変更の場合の事例による説明
事例:高齢の母が会社員の息子名義でマンションを購入
地方に住む高齢の母親(75歳)は、東京で一人暮らしをする会社員の息子Aさん(40歳)の様子を心配し、息子が安心して暮らせるようにと実家近くにマンションを購入して同居することを決めました。母親は、深い知識がないまま、将来的に息子がマンションを相続しやすいようにと考え、購入したマンションの名義をAさんにしました。マンションの購入資金は、母親がすべて支払いました。
その後、知人から「名義変更は贈与とみなされ、贈与税が課税される」と聞いた母親は、息子に多額の贈与税が課されるのではないかと不安に感じています。
解説
原則として、他人の名義で財産を取得したり、財産の名義を変更したりした場合に、名義人がその対価を支払っていないときは、その名義人が贈与によって財産を取得したものとして贈与税が課されます。
しかし、財産を他人名義にしたことが過誤や軽率な行動によるものである場合も少なくありません。このようなケースでは、以下の条件を満たせば贈与はなかったものとして扱われます。
①過誤または軽率な行為であることの確認
名義変更が過誤や軽率な行為によるものであることが、取得者等の年齢などから確認できること。
②名義を元に戻すこと
最初の贈与税の申告期限、もしくは税務署による決定または更正の日前に、財産の名義を実際の取得者(この事例では母親)の名義に戻すこと。
この事例では、母親は高齢であり、税に関する深い知識がないまま、将来の相続を考慮して軽率に息子Aさん名義でマンションを登記したと考えられます。
したがって、これらの事実を税務署に説明し、贈与税の更正の決定がなされる前にマンションの名義を母親に戻せば、贈与税は課されません。
なお、この過誤や軽率な名義変更のケースには、名義人がその事実を知らなかったことや、財産を使用収益していないことといった要件は付加されません。自己が所有していた財産の名義を過誤や軽率に他人の名義に変更した場合も同様の取り扱いとなります。
まとめ
不動産の名義変更を行った後に贈与税の問題に直面した場合でも、安易に諦める必要はありません。合意解除の特例、法定取消権の行使、過誤や軽率な名義変更など、贈与がなかったものとして扱われる可能性を探ることが重要です。
これらの判断には専門的な知識が必要となりますので、必ず税理士に相談することをお勧めします。

